小説

リボンちゃんの抑圧的犯行

世の中にはふたとおりの人間がいる。探しものをするとき、「文字通り」箱や引き出しをひっくり返すタイプの人間と、そうではない人間だ。真魚ちゃんは前者のタイプで、そういう子がほんとうにいるとは――すなわち、そんな豪快に探しものをする子がいるなんて!――知らなかったみどりは少し驚いた。そうして、そういう探し方をするメリットがあるということも同時に知った。すなわち? 近くにいるひとが探しものをお手伝いできるという点だ。

「あ、ごめんねみどりちゃん! 待たせたうえに手伝わせて!!」

真魚ちゃんのとなりにかがみ込んだみどりに、ちょっと早口になって真魚ちゃんは言う。

「ううん、いいの。映画七時二十分からでしょ? まだぜんぜんヨユーだし!」

そう答えて、真魚ちゃんのコレクションのなかからお目当てを探すべく、みどり、軽く腕まくりをすると、笑って見せた。真魚ちゃんの寄っていた眉根が、軽くほころぶ。そうしてすぐにまた、きゅっと皺が寄る。

「もう、なんで、ちゃんとおんなじところに片付けてるつもりなのに、見つからないのかなあ」

「ああ、そういうことってあるよね。不思議だよね」

そう、ほんとうに不思議である。真魚ちゃんは、そうしてみどりもだけど、整理整頓にそこまで無頓着じゃない。だって、「アカノタニン」が一つ屋根の下に暮らしているのに、たとえば脱ぎっぱなしのジーンズが共用スペースに置かれたりしてたらいやじゃない? 少なくとも、みどりたち、そこらへんの価値観は近いものを持ってると思う。

にもかかわらず、真魚ちゃんは、お出かけ前になるとよく、あれがないこれがない、と言っている。くり返すけれども、不思議だ。今日探しているのは真っ赤なリボンが一面に散ったハンカチ(通称:リボンちゃん)である。三ヶ月ほど前、一緒にマルイに行ったときに購入し、みどりが知る限りはまだ一回も使ったことがなくって、今日がその、俗世間に対するお披露目となる――はずなのだが。

「ないねえ」

「うーん」

きっちりとアイロンをあてられたハンカチの山のなかで腕組みをし出した真魚ちゃんに、お茶でも持ってきてあげようと立ち上がったみどりは、何の気なしにドアーのほうを見て(って言ったけど、何の気ありにドアーのほうを見ることなんて、あるのかしら?)、思わずはっとした。

「……ねえ、真魚ちゃん」

「なに? みどりちゃん」

「あのね、みどり、ちょっと怖いこと思いついたんだけど」

「怖いこと……えー、なんだろう」

「もしかするとリボンちゃんは自我をもってるんじゃないかしら」

「自我?」

「そう、そろそろ使ってほしいな、ハンカチとしてのお仕事をさせてほしいな、っていう抑圧がたまって、ついに犯行に出た――」

そう言ってみどり、おそるおそる、という感じで、今日真魚ちゃんが着ていく予定のコートのポケットのあたりを指差す。真魚ちゃんの視線がゆっくりと動く。

「あっ!」

真魚ちゃんが小さく叫びをあげる。

「そうだった! コートのポケットに昨日入れておいたんだった! わー、ごめんみどりちゃん!!」

「ううん、ぜんぜん! 見つかってよかったね、真魚ちゃん!」

そういうわけで、若干の紆余曲折は経たものの、わたしたちはコートを着て、七時二十分からの映画を目指し、無事、家を出ることができたのだった。ふたりとも、万全におしゃれをして。

映画館への道すがら、ふと真魚ちゃんがこんなことを言った。

「みどりちゃんは天才ね」

「天才!? ええ! 何言ってるの、真魚ちゃん」

真魚ちゃんは軽く首を振ると、にっこり笑う。

「いつもありがとう、みどりちゃん」