かわいいお葬式
ひとめぼれしたTSUMORI CHISATOのピンクのカーディガン。奮発して買ったagnès b.のかばん。とってもチャーミングなJOURNAL STANDARDのピーコート。バレリーナでもなきゃつけないようなチュチュ、なんてのもある。けれども、ふだんはわたしのクローゼットの中に眠っているそれらの存在を知っているのは、この世界においてみどりちゃんしかいない。
「もったいない! もったいないよ、真魚ちゃん!」
ことあるごとにみどりちゃんはそう言うけど、でも、ねえ。NICOLEのタイトなラインのシャツを胸の前に当てて、ぎゅっと抱きしめ、そうしてていねいに折りたたみながら、わたしは応える。
「着て汚しちゃう方がもったいないじゃない」
「うーん、その気持ちもわからなくはないけどさ」
そう言うみどりちゃんは、というと、わたしとおなじくNICOLEで買った、派手な柄物のTシャツを着ている。新品だ。とは、そう、つまり、さっきわたしとバーゲンに行って買ってきたばかりのほやほやの、ということである。
こういうお説教は母(存命だ)にもよくされていて、その常套句として用いられていたのが、「着てあげないと服がかわいそうじゃない」というものだ。理がないとは言わない。一方でみどりちゃんは、と言うと――
「みどり、そのお洋服来た真魚ちゃんとお出かけしたいよお。いや、いつも着てるのもかわいいんだけどさ」
なるほど、こちらは「理がないとは言わない」というよりは、「一理ある」。わたしも、みどりちゃんが新品の服を着ているのを見ると、気持ちがうきうきぷかぷかするもの。
タグ札を慎重に切ってごみ箱に捨て、わたしはライムグリーンのTシャツをゆっくり広げると、立ちあがり、それを胸の前に当てて見せる。
「似合う?」
「うん、とってもよく似合うよ」
今度は裏っ返して、わたし自身もうしろを向いて、背中に当ててみる。
「似合う?」
「うん、すっごくすっごくかわいいよ、真魚ちゃん!」
ふう、とわたしは満足して息を吐く。そうして腰をおろし、ゆっくりとTシャツを畳んで膝の上に載せると、ちょっとおどけたように言った。
「はい、おしまい」
案の定みどりちゃんは、ちょっと不平げな顔をした。
「ええー、明日学校に着てかないのー? やっぱり?」
「うん」
わたしは頷く。そうして、みどりちゃんは、いったいわたしが何をおかしがっているのか、きっと訝しがったことだろう。実際のところは、おかしかったというよりも、うれしかったというほうが近いのだけれども。
「こういうのはとっておきのときに着るためのものなの」
「とっておき?」
「そう」
そう、たとえば、みどりちゃんとふたりで、ピクニックに行くときとかね。