小説

ソフトクリーム・クリード

めずらしく、みどりちゃんが怒っている。そうわたしは思い、つづけて思う。怒っているみどりちゃんを見るのは、めずらしい、と。いけない、これでは「つづけて」ではなく「かさねて」だ。そうしてわたしは、こんなことで自分が、意外と動揺しているのに気づく。

上野で「バルテュス展」を観てから、みどりちゃんは不機嫌なのだ。と言っても、バルテュスがお気に召さなかった、というわけではない。ぷんぷん怒り心頭に発しているみどりちゃんに、ここでマイクを向けてみることにしよう。

「まったく、バニラアイスとソフトクリームはベツモノだっつーの!」

おわかりいただけただろうか。そうなのだ。美術展に行く途中で買ったソフトクリームが、バニラアイスクリームをねじの胴体部分の型にしただけのものにすぎなかったことに、みどりちゃんはたいそうご立腹なのである。ところで、バニラアイスクリームとソフトクリームの違いとは――

基本的な原材料はアイスクリームとほぼ同一であるが、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、ソフトクリームの場合は調合した液体原料を、ソフトクリームフリーザーと呼ばれる専用の機械に直接投入し、機械の中で高速攪拌しながら冷凍させて原料の中に空気を注入させていき、一定の軟らかさが得られたところで原料を機械から取り出す」と傍点部を多少強調しながらWikipediaの説明を読んでみせたものの、「『ほぼ同一』ってことは『少しは違う』ってことだよね!? きっとそうだよね、真魚ちゃん!」と、鋭く切り返されてしまった。みどりちゃんはおっとりぼんやりしているようで、実はけっこう注意深くって目聡いほうなのだ。

「でも、みどりちゃん、そもそも、バニラアイス嫌いだっけ?」

「好きだよー。今日のアイスもバニラアイスと思えば、まあ、悪くなかったかしら、って思う」

「じゃあそんなに怒ること、なくない?」

「んー、でもさー……」

みどりちゃんは、右足の指のあいだに右手の指を差し入れ、ぎゅっと足の甲を握り込むと、心もち顔をあげて言った。

「ねえ、真魚ちゃん。たとえば、インドカレーのお店で、ビーフカレーがメニューにあったら、それはちょっと違うでしょ、ってならない? あなたのインドはどういう国ですか? っていう」

「まあ、それは、なるかな」

「みどりのなかでは、それとおんなじことなの」

なるほど、みどりちゃんの言い分の理については判じかねたけれども、彼女がソフトクリームに対して、かみさまに対するのとおなじような気持ちをもっていること、だけはかろうじてわかった。それでも、釈然としないものがいまだにおおく浮かんでいるであろう顔で、わたしは軽く首をかしげると、

「ミニストップでよかったら、ソフトクリーム買いにゆく?」

「うんっ!」

言下にうなずいたみどりちゃんのかかとが、小鹿の蹄のように跳ね上がった。