小説

みどりちゃんとピザ

夜明けに似合わない食べものランキングをつけるとしたら、わたしのなかでぶっちぎりの一位は、デリバリーのピザ(できたて)である。みどりちゃんだって、それはおおむね同感のはずなのだ。

真魚まなちゃん、見て。ここのピザ屋、朝の六時からやってる。変わってるね、おっもしろいね」

変わってるね、おっもしろいね、とはつまり、そういうことだろう。

「よーし、明日早起きして、開店と同時に注文してみようか!?」

ここがわからない。もっとわからないのは、一限がないときはふだんなら十時過ぎまで寝てるくせに、こういうときだけきちんと五時半にアラームをセットして、まじでちゃんと起きて注文しちゃう、みどりちゃんのその行動力だ。シーフードとてりやきチキンのハーフアンドハーフ、コーラ二本つき。朝から胃がもたれそう、とか、そういうのは、わたしもまあ、どうでもいいほうである。(こう見えて、女子高生のころは、毎朝立ち食いそば屋の常連だった。)でも、ピザって指にチーズのにおいがいつまでも残るじゃない。そういう真似をできるのは、だから、夜の特権じゃあないのか。

「ほら、真魚ちゃん、はやく座って。食べよ食べよー」

「……うん」

わたしは口だけでシュコウのイを表明すると、ふう、とため息をついた。夜明けに似合わないランキングぶっちぎりの第一位はデリバリーのピザ。けれども、似合う似合わないよりも大事なのは、わたしが、冷めたピザを食べるよりもあたたかいピザを食べるほうが好きだということだ。キャビネットの上のゴムで髪をまとめると、わたしはみどりちゃんの真正面に座る。玉手箱の蓋を開けるように、みどりちゃんがピザのパッケージを開ける。ほわーんとした湯気のなかで、ピザのうえのシュリンプと目があった。顔をあげると、今度は、ほっぺたをふくらませて喜んでいるみどりちゃんと目があった。

「うわーピザだ! ピザたのんじゃったよ! 朝から!!」

そう言うと、がばりとおとうさん座りをして、ボール紙のうえからピザをワンピース、三角形の底辺と頂点にあたるぶぶんをつかんで、折りたたむようにして口にはこぶ。

「おいしー! あー、ビール飲みたい! ねぇねぇ、ピザ食べてるとビール飲みたくなるよね」

「ならないよ、みどりちゃん……ピザにはコーラだよ」

「そう?」

わたしは体育座りをして、シーフードのピザをもそもそと口に運ぶ。体育座りをしていて、冷房が効いていると、どうしても足の爪に目がいってしまう。あ、やっぱり親指のペディキュア剝がれかけてる。あとでみどりちゃんに塗ってもらおう。

「よくさあ、人生で一度はやってみたいことってあるじゃん? スイカをまるごと一個食べるとか、ケーキをワンホール食べるとかさあ」

鼻の下についたチーズをぺろりと舐め、また口を開いてピザにかぶりつきながら、みどりちゃんは言う。

「ああ、あるねえ」

「なんかあった? そういうの?」

「一万円札でお船を折ってみたかった」

「あはは、真魚ちゃん頼もしいな!」

みどりちゃんの喉がもぐもぐと動く。そうして、それはちょうど、みどりちゃんがワンピースピザを平らげたところだった。

「……でもさ、そういう明確な目標もおもしろいけど、『朝からピザ』みたいなさ、とうとつに訪れたおもしろい夢を、みどりは見逃さないでたい。で、そういう夢で、きちんとホームランとるとこ、真魚ちゃんにはずっと見ててほしい」

「……わたしに?」

「そ!」

あー、やっぱりビールほしい、朝だけど飲んじゃおっ! と、そう言って、みどりちゃんが立ち上がった。ちいさな冷蔵庫の前でかがみこんだみどりちゃんが、朝の光のなかに白い背中をさらすのを、わたしはぼんやりと見ていた。